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メルマガ限定コラム「子どもを見つめた先にあるもの」SOS子どもの村JAPAN ファミリーソーシャルワーカー 刀禰

SOS子どもの村JAPANが毎月発行しているメールマガジン。
今月はSOS子どもの村 ファミリーソーシャルワーカー 刀禰がコラムを執筆しております

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SOS子どもの村、ファミリーソーシャルワーカーの刀禰です。

前職は就学前の療育センターに勤務していましたが、もっとひとりひとりに寄り添った伴走支援がしたいと思うようになり、2年前に子どもの村に入職しました。

私の役割は、里親さんと里子たちの様子を把握してサポートしたり、チーム養育には欠かせないファミリーチームミーティングではファシリテーターを担っています。里親さんを柱とし、チームで子どもたちのことを考え合います。児童相談所や、学校、他の機関との関係調整、里子の実家族との交流の調整や同行、新規委託する子どもと交流する里親さんに同伴したりと多岐に渡ります。調整業務が中心で、いわば「黒子」のような役割を担っていると思いますが、「人と人をていねいにつなぐ」ことをなにより大切にしています。

自閉症青年の絵画個展

秋が深まってきた今月、糸島のある小さな美術館で自閉症青年の絵画の個展が開かれています。その青年のことを紹介させて下さい。

最重度の自閉症と、重度の知的障がいのある青年です。2歳で障がい宣告があり、医師は両親に「この子はみんなであたたかく育て合いなさい」と告げました。青年はひとりごとや大きな声を出すことはあるけれど、お話することはできません。介助は常時必要です。

地域から見えにくい子ども

みなさん、障がいの重い子どもたちの暮らしをご存じでしょうか?おそらく、「地域から見えにくい子どもたち」ではないかと思います。この青年の場合を紹介しましょう。

この青年の幼少期は、療育センターの母子通園や、知的障害児単独通園施設に通園し、就学は特別支援学校に入学。小・中・高の12年間を過ごします。暮らしは日々切れ間なく続くので、家族だけの介助では暮らしが成り立たないので、さまざまな人が関わります。幼少期から支援者は寄り添い続け、代わる代わるひとつのバトンをつないで伴走し続けています。いつも調子のよいときばかりではなく、、なぜか機嫌のよくないときもあります。でも、よいときもそうでないときも、淡々と毎日を送るための支援がつながっています。それは今も続いています。

個展を開催するきっかけ

そんな青年が絵を描き始めたのは、特別支援学校の小学部のころ。砂やくもった窓ガラスに、「コックさん」をいつの間にか描くようになったのがはじまりです。誰かが教えたわけではありません。今はみたものそのものも描くようになりましたが、特によく描く絵は、「重なり合う絵」です。3年前に絵画教室にヘルパーさんと通うようになりました。のびのびと描くそうです。固定概念にしばられない青年の絵は自由です。下描きもしないし、迷いもありません。線を一本ひけば、そこから次々と彼の世界が広がっていくのです。知識以前の世界は、限りなく自然でとても純粋です。絵画教室の先生は青年の独特な世界観を評価し、「個展を開いてみませんか」と提案してくれたのが、青年の個展開催のきっかけでした。

多様性を認め合うとは

世の中にはいろんな人がいて、そういう多様性があることが人間社会の面白いところでもあり、すばらしいことでもあると思います。でも、私たちは日ごろ、自分と異なっている人に出会う機会が少ないと、どうしてもステレオタイプなイメージに決めつけてしまいがちです。

実はこの青年は私の息子なのですが、私が自閉症児の親となり、幼少期は必死に療育をする、そんな時期がありました。「自閉症を理解して下さい」と言われても、私自身が戸惑っていました。日本国内には何十万人もの人が自閉症に当てはまります。でも家族や友人に自閉症の人がいればともかく、そうでなければ自閉症の人が日々どんなふうに考え、世界をどうみているのか、ということが解りません。自閉症が何かわからないというより、その人たちにどうしてあげたらよいのか、自分の心がみえなかったからでしょう。「ボクはボクなのに何を変われというの?」息子から声なき声が聴こえてくるようになってから、私は少しずつ自分の心が見えるようになってきました。

つながる支援ひろがる輪

つながる支援はひろがる輪となり、息子だけではなく私たち家族の暮らしはずいぶん豊かになりました。息子や私たち家族のまわりには、ボランティアさんをはじめ、多くの方が関わっています。幼少期から現在に至るまで、出会いの種は息子の育ちに大きな影響を受けています。個展はまだはじまったばかりですが、お世話になった先生や、ご近所のママ友や子どもたち、ボランティアさんやヘルパーさん、古くからの友人や、人伝に個展を知った「はじめまして」の人、農家のおじさん、レストランのオーナー、事業所の仲間、看護婦さん、画家、子どもの村のスタッフまで!とにかくたくさんの人が息子の個展に訪れます。どんなふうに感じるのかは人それぞれですが、100号キャンパスに油絵で思いっきり自由に描かせてみたい、なんてワクワクした表情で語られる美術館のオーナー。息子の傍らでみなさん笑顔がこぼれます。美術館はなんとも居心地のよい空間となりました。小さな波は大きなうねりとなり、さらに大きなひろがりをみせています。

子どもを見つめた先にあるもの

子どもを観察し、その目でもって社会を眺め、ふたたび子どもを見つめる。見つめた先にたどり着くのは、障がいの重い子どもも、そうでない子どもも、どんな子どもも愛され、大切にされていると感じながら過ごす権利があること、それから困難を抱えながらの子育てでも、つながりと支えがあれば、豊かに暮らすことができること、そして医療や福祉、行政などが切れ目なくチームで支える仕組みがあってこそ、持続可能になるということでした。私は確信しています。子どもは社会の子、未来の子、希望の子です。ソーシャルワークの視点とともに、子どもの村で出会うご家族や子どもたちひとりひとりに寄り添っていきたいと思っています。

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現在、愛息の正太郎くんの個展が糸島市にある「あかきや美術館」で開かれています。

糸島に行かれる際、ぜひお立ち寄りいただければと思います。

会場:あかきや美術館&Cafe 糸島市志摩小金丸1873-5 Tel 090-5386-1626
開催日:11月23日(水・祝)26(土)27(日)
時間:11時~17時

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