災害時「子どもの心のケア」手引き

熊本地震の被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。
余震が続く中での避難所で、また車中泊などでの生活で、大変な状況であろうと思います。
子どもたちの困難な状況は、これから徐々に明らかになってくるものと思われます。
子どもの村としても、子どもたちやその家族のためにできることをしていこうと考えています。

できることのひとつとして、東日本大震災の後、全国里親会とともに発行した『社会的養護における災害時「子どもの心のケア」手引き 〜里親養育のために〜』のデータを公開することにしました。この冊子は、日本子ども虐待防止学会・社会的養護ワーキンググループが東日本大震災後にまとめた児童養護施設の職員向けにまとめられたものを、里親向けにまとめなおしたもので、全国里親会を通して東北の里親のみなさんに配布いただき、「あの冊子はよかった」「ためになった」と感想をいただきました。

震災による子どもの心の問題は、災害発生から2ヶ月の急性期、2ヶ月から1年後までの急性後期、1年以降の後期と3段階に分けられます。急性期がもっとも反応が大きく現れるため、これから2ヶ月の初期対応は大切です。この冊子では、具体的にどのような反応があり、どのように声かけしたらよいのかも含めて提示されています。

冊子の中で、現時点で特に有用だと思われる「子どもの初期対応」を抜粋したものと、「社会的養護における子どもに特徴的な反応」について、以下にまとめました。
現場で子どもたちに関わる方だけでなく、子どもへの理解を深めていくためにも役立てていただければ幸いです。

 

『社会的養護における災害時「子どもの心のケア」手引き 〜里親養育のために〜』
※リンクをクリックすると、ISSUU.comのページにとびます。ページをめくりながら閲覧でき、ダウンロードも可能です。

<目次>
1.この手引きが扱っていること
2.里親のみなさんに起きていること
3.子どもへの初期対応
4.子どもへの中期的な対応
5.災害時の子どもの反応
6.災害後の保護者・家族との関係の変化と対応
7.家族を亡くした子どもへの対応

<編集・執筆者一覧(50音順・敬称略・所属は平成23年4月時点)>
相澤 仁 (国立武蔵野学院)
奥山眞紀子 (国立成育医療研究センター)
富田 拓 (国立きぬ川学院)
西澤 哲 (山梨県立大学)
藤澤陽子 (国立武蔵野学院)
藤林武史(福岡市こども総合相談センター)
星野崇啓 (国立武蔵野学院)
森 茂起 (甲南大学)

<書誌情報>
平成23年4月発行
A5版63ページ
発行者:
子どもの村福岡と子どもにやさしいまちづくりネットワーク
財団法人全国里親会

 

<<子どもへの初期対応>>

1)安心感の回復を心がける
子どもの不安や恐怖に共感的に耳を傾け、「怖かったよね」とか「心配だよね」といった言葉を返してあげてください。そのうえで、「もしまた地震が起こったら、~しようね」といった形で、現実的なプランを話し合ってください。その際、「絶対に起こらないよ」といったような非現実的なことは言わないようにしてください。重要なのは、子どもが「対処できる」という感覚を持つことと、「○○○さんがついていてくれるから安心」といった、大人からの保護を期待できることです。

2)過去と現在の違いを明らかにする
しばらくの間は余震が続きますが、「小さな地震は続いているけど、一番大きな地震はもう終わったんだ。だから、今はもう安心していいんだ」と教えてあげるといいでしょう。その際には、本震と余震という地震の仕組みを子どもにわかる言葉で説明してあげることが役立つ場合もあります。

3)罪悪感を扱う
幼児期から小学校低学年にかけての幼い子どもたちは、良くないことがおきると、「自分が原因」と思う傾向があります。子どもが今回の災害に対して罪悪感を抱いていないかを見極めることが大切です。子どもの言動から、「もしかしたら…」と気になることがあれば、子どもが罪悪感を持っていないかを尋ねてみてください。その際には、たとえば、「あのさあ、この前、すごく大きな地震(津波)があったよね。あなたくらいの歳の子って、ときどき、『ぼくが悪い子だったから、こんな大変なことが起こったのかもしれない』って思うことがあるんだけど、あなたはどうかな?」といった聞き方をするといいでしょう。

4)自分の反応は普通のことであると理解できるように支援する
震災など、心身の安全が脅かされるような出来事を経験した場合、その直後から数週間はさまざまな心理的、精神的反応が現れることは珍しくありません。こうした反応が子どもに見られた場合には、それは決して「異常」なことではなく、普通の反応であること、時間の経過とともにやがて落ち着いてくることを子どもが理解できるように援助しましょう。たとえば、昨日と今日の反応の強さを子どもに比較してもらい、少しずつでも「回復」してきていることを自覚してもらうといった方法もあります。

5)子どもの活動を確保する
子どもは、大人が思う以上に周囲の状況に敏感なものです。震災やその後の混乱という非日常的な事態への対応に大人たちが追われているのを見て、子どもは不安になったり、あるいは、「大人はみんな大変そうだから、自分のことで余計な心配をかけてはいけない」と考えて困ったことや心配事があっても我慢してしまうことが少なくありません。このように、子どもにとっても、震災後の生活は大きなストレス因となるものです。こうした子どもたちには、体を動かして抱え込んだストレスを発散できるゲームやエクササイズなどの活動が助けになります。

6)子どもの自発的な表現は遮らないで受け止めてあげる
子どもは、遊びや、それに伴う会話を通じて、さまざまな感情や考えを表現し、少しずつ心の安定を取り戻していくものです。こうした遊びや表現を目にしたら、災害時の子どもの恐怖や絶望感を共感的に汲み取って、「いっぱい揺れたよね、怖かったよね」といったふうに言葉にしてあげてください。そして、「過去と現在をわけること」の項目で述べたように、「今はもう安心」ということを子どもに伝えてあげてください。

7)生活の見通しを持たせる
災害後の初期段階では、予定や見通しが全く立たないといった状況におかれることは少なくないでしょう。そんなときでも、ほんの短期間の、少し先のことでもわかることがあれば、それだけでも子どもにとっては「見通し」となるものです。

8)子どもに適切な情報を提供する
同じ衝撃的な体験であっても、何が起こったか、あるいは起こっているのかを理解できているのとできていないのとでは、子どもに与える心理的なダメージには大きな違いがあるものです。そのため、地震や津波などがどうして起こり、現在、どのような状態になっているのかを、子どもに理解できる言葉で丁寧に説明することが重要です。

<<社会的養護における子どもに特徴的な反応>>

社会的養護という場では、こんな時こそ信頼すべき大人にすがりたいはずなのに、自分を守ってもらえる大人に対する信頼感が少ない子どもが多いですし、見捨てられるかもしれないという不安も強いものです。社会的養護のもとにある子どもたちに特徴的な反応を以下にまとめます。

1) 何事もなかったかのようにふるまう
里親家庭になじんで、里親が自分を守ってくれる人という信頼感ができている場合には、里親から離れられなくなったり、赤ちゃん返りをすることが多いものです。
しかし、未だ里親家庭になじんでいなかったり、虐待や放任などの影響で人を信じることが難しい子どもは、自分ひとりで耐えようとするかもしれません。また、何事もなかったかのようにふるまうことも少なくありません。しかし、確実に心理的混乱は起きています。理解しておきましょう。逆に、里親から離れなくなったり、赤ちゃん返りがあるときには、その反応を大切にしましょう。

2) 全く違った人になったかのような反応をしたり、混乱する
感情や行動が突然脈絡なしに変わってしまうなど、まとまりのなさが著明になることがあります。「さっきのA子ちゃんと今のA子ちゃんが同じなの?」と思えるような時です。また、「やりたい、やりたくない」と物事を決められなくなってパニックになることもあります。それが激しくなると、混乱した状態になったり、極端な赤ちゃん返りが出現したりします。そのような時には 早めに児童相談所や医療機関等の専門家に相談しましょう。

3) 苛立ちや怒りの増加
もともと、実親への怒りや、実親と一緒にいられないことに対する怒りを心の中にしまっていた子ども達の怒りや苛立ちが増加し、激しい怒りが他の子どもや里親に向けて爆発的に表現されたりすることもあります。 また、もともと感情の調節が苦手な子ども達は、自分の苛立ちを押さえられなくなりがちです。むやみに叱るのではなく、あなたの気持(怒りやイライラ感)はわかること、しかし、他の人を傷つけることは許されないことを話しましょう。

4) 過去の怖かった体験(虐待や事故など)を思い出したり、フラッシュバックとなる
社会的養護にいるお子さんの中には、過去に怖い体験をしてトラウマを受けている子どもが少なくありません。そのようなお子さんの中には、時として忘れていたことを思い出して急に不安になったり、その時に戻ってしまったかのような感覚になって(フラッシュバック)強い不安を感じることもあります。「昔は怖かったね、でも今は守るよ」というメッセージを伝え続けましょう。

5) 大人びた振る舞いをしたり、支配的になる
大人を信頼したり、大人に頼ることが出来ない子どもの中には、危機状態になった時に、自分が大人になったような振る舞いをしたり、周囲に対して支配的になることがあります。人を信頼できずに不安が高じた結果、自分が状況を支配することで安心感を得ようとする反応として理解するといいでしょう。

6) 睡眠や食事への影響
眠れない、食欲のムラが激しくなるなど、睡眠や食事などの生理的な活動に影響が出てくる危険性が高いと考えられます。もともと、自分を調節することが苦手なお子さんが多いので、ストレス下ではリズムを崩しやすいことが影響するでしょう。安心感をたかめることで対処しましょう。